ブックタイトル近代テキスタイルの保存と修復

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概要

近代テキスタイルの保存と修復

よりやや小さい。水回りはこの周囲に集中しており、すぐ脇に染色のためのスペースが配置されている。3-4ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館修理施設本修理施設は、最近サウス・ケンジントンの本館からブライズハウスに移動してきたばかりであり、まだ整理の最中という状態である。収蔵庫内には真新しい収納棚等が入れられており、移動してきた収蔵品などがところ狭しと並んでいた。平面系の染織品は、大英博物館と同じく巻いて収蔵する方法をとっており、巻かれた収蔵品にカバーをした状態でラックに収めている。一方、状態の良い洋服類はクッションで覆ったハンガーに掛け、タイベックR(Tyvek R)のカバーをした状態でつり下げて保管している。これができないものに関しては、引き出しに収蔵していた。帽子等の装飾品や靴類に関しては、別室にロッカーを立てて、その中に保存している。修理施設内には修復部門も設置されており、カーテン及びベッドのヘッドボードの染織品の修理を行っていた。いずれも布の劣化が激しく、縫製だけでは修理できないため、接着補強と縫製補強を組み合わせて修理を行っていた。接着剤にはラスコー社(Lascaux colours &Restauro)のアクリル系接着剤を用い、薄絹に塗布した後、熱を用いて接着補強していた。タペストリーは補強布へ縫い付ける作業を行っていた。修復室内では、次の展覧会に向けた現代の衣装の皺伸ばしなども行われており、速やかにマネキンへ着付けられるように準備されていた。3-5 王立海事博物館修理施設王立海事博物館(National Maritime Museum)は、ロンドンから南東へテムズ川を下った地域に位置し、カティー・サーク号が保存展示されているグリニッジの王立海軍大学校に隣接している。修理施設は博物館から少し離れた小さな建物の中にあり、染織の担当部署もそこに所属している。常勤スタッフは1名のみで、研修生というかたちで補佐をするスタッフがいる。施設の規模は、前述した他の博物館の施設と比較するとかなり小さい。室内には大きめの作業台が2台つなげ合わせてあり、その上で修復作業を行っている。大きな洗浄テーブルなどはないようである(写真15)。作品の搬入の際には冷凍処置を行っているとのことで、修理室の外の廊下に300リットル程度の大きさの冷凍庫が設置してある。訪れたときは、「ナイルの海戦」のヒーローであるネルソン提督(Nelson. H)の旗、海軍の軍服、ネルソンが着ていたとされる下着の修復を行っていた。旗については、生地が傷み強度が不足しているため、ラスコー社のアクリル系接着剤を薄絹にスプレーした接着補強布を作成し、旗の生地が破れた部分を熱で再接着し補強していた。さらにマウントボード側に同色の赤い生地を縫い付け、その上に旗をマウントし、破れた箇所が目立たないような工夫をしていた。また、旗自体はマウントボードに縫い付けていた(写真16、17)。海軍の軍服は、破れた箇所の裏に同色に染めた絹布を挿し込み、糸で補強し裏地全体に表から薄絹を掛けて保護する手法をとっていた。王立海事博物館の収蔵庫は、博物館から少し離れたところにある倉庫を使用している。温湿度管理がされており、概ね温度20℃、相対湿度50 %前後で調整されている。収蔵品に関しては、衣装を平置きすることを基本としているが、スペースの関係から状態の良い制服類はハンガーに掛けて綿布カバーで覆っている(写真18)。制服に付随するリボンテキスタイルの保存と修復11