ブックタイトル御料車の保存と修復及び活用

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概要

御料車の保存と修復及び活用

リスの事例では博物館に収蔵された時点の状態を維持し、安定化を目的としてナイロンネットで家具類をカバーする方法が採用されていた。また博物館に収蔵された王室専用列車は文化財と位置づけられ、現在の役割では再使用を想定していないため修理や鑑賞を目的とした修復は行っていなかった。このような前例を念頭に、日本における御料車の染織調度品の保存処置を行った。「保存処置(conservation treatment)」は修復、復元、修理とどのように異なるか、一般には分かりにくいいため、その意味をアメリカの保存修復学会の倫理要綱に従い説明する。要綱では「保存の目的」を「未来のために文化財を保護すること」と定義している。「保存」の内容として、1番に調査、2番に記録、3番に処置、4番に予防保存があげられている。処置に安定化(stabilization)と修復(restoration)が含まれ、安定化とは、作品の状態を維持するために実施する最小限の処置である。修復とは、安定化に加え「推測される元の状態に戻す処置」と説明されている。予防保存とは破壊予防策を講じることで、環境管理、取り扱い、収蔵、展示、輸送、IPM(害虫の管理)等が含まれる。御料車の移設と展示にともなう保存方針としたのは処置の中でも安定化と移動中の事故を未然に防ぐ予防保存である。いた。また埃と虫菌類による被害が見られた。車両センターに保管されていた7、9、10、12号御料車は、当初は清掃して納められた様子がみられたものの、外部の土埃が車内に堆積し、虫菌類による被害が広がっていた。特に旧読売ランドに展示されていた7号御料車は内部が公開されていたため、椅子類の破損が大きく、絨毯の汚れが目立った。2.クリーニング汚れやカビは繊維の強度を低下させ、染織品の劣化を促進する。汚れが付着したまま展示することは御料車の展示効果を低下させる。御料車の保存のためには表面的な汚れを除去することが望ましかった。クリーニングでは作業者の安全衛生の観点から、マスク、ゴーグル、帽子を着用し、作業着は一日で廃棄した。多くの家具類は室内で組み立てた様子で、室外に持ち出してクリーニングすることができなかったため、室内で移動させながら作業を進めた。染織調度品のクリーニングは基本的に天井から始め、柔らかい刷毛で少しずつ埃を払いながらポータブルな排気循環型HEPAフィルター付き掃除機で吸引した(写真2)。天井か御料車の状態御料車の室内は天井と壁に絹布がはりこまれ、絨毯が敷かれていた。椅子類は絹または毛の布張りで、長椅子などは壁面に固定されていた。カーテン、ブラインド、テーブルクロス、クッションはいずれも絹製であった。旧交通博物館に展示されていた1号御料車は重要文化財で、2号御料車とともに内部への立ち入りが制限されていた。椅子と壁面は絹地をはり込んだもので経年によって絹地が破損して写真2長椅子の埃の除去御料車の染織調度品の保存処置81