ブックタイトル御料車の保存と修復及び活用

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概要

御料車の保存と修復及び活用

の他、菊紋Medalを使用した時に入ったと思われる擦損が数多く散在した。一部に蒔絵を使用した後世修理が認められたことから、終戦前に台湾において修理の手が入れられたものと考えられる。下記に損傷を列記する。1埃や汚れが全面に付着していた。2カビの痕跡が認められ、金蒔絵の上に斑点を作っていた。3素地に使われている木地の収縮によって亀裂が各所に認められた。特に、AH-1229-2のMedalは木地の木目方向に完全に割れ、2 ? 3 mmの空隙を作っていた。4素地の亀裂は木地の木口付近にも合計3か所の亀裂が認められた。所蔵番号AH-1229-1では大きな割れはないものの、木口周囲に5か所に亀裂があった。5剥離は認められなかったが、割れの周囲に亀裂が伸びており、不安定な状態にあった。6制作時や使用時についたと思われる傷が各所に認められた。7擦損によって下地や漆が露出していた。8後世修理と復元部分が各所に認められた。特にAH-1229-1は素地の亀裂部分に修理を施し、刻苧で充填をしていた。また、蒔絵の損傷部分に塗膜の上から蒔絵を施している部分が広い面積で認められた。6-4.菊紋Medalの修理仕様菊紋Medalの修復は打ち合わせを含め2週間という短期間に行うため、現状維持を基本に、資料の保存と展示効果を考えて割れや亀裂部分を簡易的な技法によって復元するものとした。復元部分は可逆的な技法を用いることが望ましいとの要望を受けて、修復仕様を検討した。その結果、可逆的な合成樹脂で充填し、漆と金粉で色調整することで可逆的かつ色合いに違和感の生じない仕上げを選択した。修理にあたっては事前に材料実験を行い、その内容を担当者と協議してから実際の修理に用いた。使用された時の擦損や後世修理は原則として手を加えないこととした。6-5.菊紋Medalの修復工程(1)調査および写真撮影現資料の素地、下地、塗り、加飾をそれぞれ技法の上から調査し、現在の傷みの現状を把握した。修理前の写真撮影を行った。(2)クリーニング全面に被った埃を毛棒で払い落とした。汚れやカビは純水を含ませた綿布でクリーニングした。(3)修理材料実験充填材料および色調整材料実験を行った。とのこまつもっ充填材料はセルロースパウダー、砥粉、松木ぷん粉、混入材は上新粉糊、麦漆、メチルセルロー写真47充填材料実験写真48充填材料および色調整実験御料車における内外装の保存処置―漆工・木工など77