ブックタイトル御料車の保存と修復及び活用

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概要

御料車の保存と修復及び活用

送して展示することになった。旧鉄道博物館の1号御料車、2号御料車は展示ケース内に展示されていたが、東京総合車両センターの7号御料車、9号御料車、10号御料車、12号御料車は長期間にわたって倉庫内に保管されていたため、劣化や経年変化だけでなく埃や汚れが厚く堆積していた。旧国鉄やJR東日本の担当者が埃を払い、防虫剤を置くなどの措置を随時とってきてはいたが、本格的な保存処置は行ってきてはいなかった。これらの御料車の保存処置を鉄道博物館に移送前と移送後の2期に分けて行なった。保存処置計画の概要を下記にまとめる。・目的:新設される鉄道博物館に御料車を展示するため、簡易的な保存処置を行う・対象:御料車初代1号(国指定重要文化財)、御料車初代2号(鉄道記念物)、御料車7号、御料車9号、御料車10号、御料車12号(すべて鉄道記念物)・期間:移送前-平成18(2006)年10月から平成18(2006)年11月移送後-平成19(2007)年6月・施工体制:JR東日本一般社団法人国宝修理装?師連盟―修理技術者・場所:東京総合車両センター(大井町)および旧交通博物館(神田須田町)・対象:染織、紙、漆(木工を含む)の各分野。漆は内装部全般(壁面、床および家具等)や外装担当。・保存状態:埃、汚れ、カビが著しく、外板の一部では剥離が認められた。・内容:埃や汚れを刷毛と掃除機で除去する。壁面は乾拭きや水拭きを行い、カビや付着物は溶剤を用いて除去する。剥離箇所は移送前に養生を行い、移送後に養生を取り外す。3-1 1号御料車(初代)および2号御料車(初代)3-1-1 1号御料車・2号御料車の概要1号御料車は明治9(1876)年に神戸工場で製造され、翌年に京都神戸間で運行された。大正2(1913)年に廃車となり、その後、大井工場を経て旧交通博物館に保管されていた。1号御料車は車軸、軸受、台枠がイギリス製であり、外板は洋塗装されるなど洋風な印象を受けるが、内外装共に日本的な図様をふんだんに取り入れ、菊唐草、桐唐草、龍や瑞鳥、牡丹の小丸繋ぎなどの伝統的な文様で飾られる(注1)。特に玉座や他の家具だけでなく壁面を琥珀色や藍色の絹織物を立体的に貼り込むなど、木地仕上げした窓枠や家具調度と対比が美しい(写真1)。家具調度の木部には菊紋やアカンサスなどを彫刻、鏡台と洗面台上部には白色の大理石、洗面器には金彩の磁器を用いる。御座所天井には金蒔絵した十六八重表菊の菊花紋のレリーフ一対を取り付ける。2号御料車は明治24(1891)年にドイツから輸入された貴賓客車で、明治35(1902)年に御料車として大改造されて明治天皇が乗用された(注2)。大正2(1913)年に廃車となった後は大井工場で保管されたが、昭和11(1936)年旧万世橋駅駅舎跡の敷地を利用した鉄道博物館(旧交通博物館)新館に移動された。2号御料車は曲面ガラスを窓に用いるなど洋風であるが、カーテンの文様やテーブル等には日本の伝統的文様が認められる。窓下の壁面には臙脂色のビロードが貼り込まれるが、その他の部分は木地仕上げが多く、壁面は透漆の溜塗りが施されている(写真2)。また、車端部の御厠の一部には漆塗りを施す。3-1-2 1号御料車と2号御料車の保存状態1号御料車は全体に埃が被るが、カビなどの付着は少ないように思われた。木彫が入った家具調度部分に埃が被り、全体的に灰色となっていた。窓は外側にガラス窓があるが、内側窓の御料車における内外装の保存処置―漆工・木工など61