ブックタイトル御料車の保存と修復及び活用

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概要

御料車の保存と修復及び活用

刊行にあたって東京文化財研究所保存修復科学センターでは、平成10(1998)年に開催した国際シンポジウム「近代の文化遺産の保存と活用」から始まり、近代の文化遺産の保存修復に関する問題点と解決策を探ってきた。平成18(2006)年からは、文化財の活用方法を探る研究会を開催している。本書は平成24(2012)年11月に、御料車の保存と修復及び活用に関して、鉄道博物館の学芸部の方々、博物館明治村の主任学芸員の方や、御料車の修復作業に携わり現在は当所の客員研究員をしている方々、鉄道関連の専門家でもある客員研究員の方、また、台湾において近代文化遺産の研究をされており、その一環として台湾に残されている御料車の研究をされた方をお招きし、当所の地下セミナー室においてご講演いただいた内容をまとめたものである。最初に私から、御料車の特殊性などの概要に加えて、御料車を残していくことの意義や、修復や活用する際の問題点などについて、海外に残されている王族専用列車の事例等も交えて紹介しながら話をした。続いて、当所の客員研究員で、鉄道車両に詳しい堤一郎先生から技術史的な観点からみた御料車の持つ価値についてお話しいただいた。次に、鉄道博物館学芸部の嶋立副館長/学芸部長と田邉学芸部主任から、鉄道博物館において保存展示されている御料車に関する現状の紹介と、鉄道博物館が取り組んでいる活用方法について報告いただいた。続いて、やはり御料車を保存展示している博物館明治村の中野主任学芸員より、明治村における保存に関する状況や展示に関する取り組み等の報告をしていただいた。さらに、当所の客員研究員である山下好彦氏から、JR東日本東京総合車両センターにて実施した御料車の漆関連の修復事例に関する報告があり、次に同じく客員研究員の石井美恵氏から、同様にテキスタイル関連の修復事例に関する報告があった。最後に、台湾の中原大学の黄俊銘先生から、台湾に保存されている御料車に関する現状の報告及び先生が実施された御料車の内部調査に関する報告がなされた。当研究室では、不動産や大型の近代文化遺産を対象に研究会を開いてきたが、一昨年度から、音声・映像記録メディアの保存と修復や近代建築に使用された油性塗料に関する研究会を開催した。これは、これまでどちらかと言えば見過ごされてきた目立たない文化財に目を向けて、積極的に保存と修復に関わっていこうとする現れであったが、今回は御料車の保存と修復及び活用という、またしても少し毛色の変わった分野についての研究会を開催した。御料車は皇族方専用の列車であり、一般の方々はなかなか目にすることができないものである。そして、それらは製作された時代の最先端の鉄道技術の粋を集めた車両であり、またその時代の美術工芸の技術を結集した装飾が施されているものである。まさに「動く美術工芸品」と言われるゆえんである。しかしながら、それが故に保存と修復には多種多様な技術が必要となること、製作されてから140年くらいの年月が経っている車両の場合、相当劣化が進んでおり適用できる修復手法も限られてしまうなどの問題がある。2