ブックタイトル御料車の保存と修復及び活用

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概要

御料車の保存と修復及び活用

御料車の製造は鉄道工場で行われたが、鉄道人のみならず、各時代を代表する美術家や、宮内庁(戦前は宮内省)とゆかりのある企業などが関わってきた。文献などで判明するのはそのうちでも代表的な人物だけであるが、例えば5号の天井を飾る絵画には川端玉章や橋本雅邦、大正期に製造された御料車の漆芸には六角紫水、そして11号の食堂室を飾る木彫には高村光雲が携わってきた。また、明治期から御料車内の織物のほとんどを担当してきたのは川島織物(川島甚兵衞)である。このように名のある美術工芸家だけでなく、鉄道工場の職員もまた御料車の内装を手掛けていた。戦前の御料車図面の中には調度品なども含まれており、また、ほとんど人目に触れないような場所にまで細工が施されていることから、これらは職人たちの手で行われたことがわかる。御料車製造に関わってきた人々の意識の高さ、技術、感性が、日本の伝統文化を凝縮させた車両を造り上げてきたといえる。3.当館所蔵の御料車当館では6両の御料車、さらに解体された車両の一部を展示、収蔵している。各車両の概要の一部を紹介したい。1 1号御料車(初代)明治9(1876)年製造1号(初代)は京都?神戸間の鉄道開業式典に明治天皇が臨席する際に製造された車両である。当時、鉄道技術はイギリスから導入され、この1号(初代)も、イギリス人技師の監督の下に組み立てられた。車輪と軸受、台枠部分はイギリス製であるが、車体の内外装は日本で製作されている。全体的にはイギリスのロイヤルトレインの様式であるが、各部に使われている文様・図柄は日本的である。内部は中央に御座所、その前後に次室(侍従室)が配置され、後部侍従室の隣には御手洗所と御厠が設けられている。御座所中央にはテーブルと玉座(長椅子)が置かれ、回転椅子4脚を備えている。内壁は琥珀色の光沢のある絹織物が張られており、クッションのようなふくらみをもたせて、起毛のある藍色の包みボタンで規則的に留められている。壁面や扉、窓を囲むように配された帯には藍と金糸で丸に雲と小葵文の連続文様が用いられている。全体的に藍色、琥珀色(黄金色)の配色で統一された、大変豪華な室内となっている。(写真2?4)1号(初代)は、装飾の芸術性に加えて、現存最古の客車であり、鉄道創業期の客車の車体構造を知るうえで大変重要かつ貴重であることから、平成15(2003)年には国の重要文化財に指定されている。2 2号御料車(初代):明治24(1891)年輸入九州鉄道小倉工場改造2号(初代)は、九州鉄道(のちに国有化)が明治24(1891)年にドイツから輸入した貴賓車で、明治35(1902)年、熊本県での陸軍特別大演習に明治天皇が行幸する際に、御料車に改造して使用された。雰囲気は1号(初代)よりも洋風だが個々の文様には日本的なものが多い。車体は1号(初代)よりも大型で、当時のドイツの客車によく似ている。内部は一端に御座所を設け、化粧室(御厠を含む)、侍従室の3室となっている。御座所にはドイツ製のテーブル、玉座(長椅子)、小椅子、隅棚、剣立などが備えられ、壁面には金茶色を基調としたビロードの生地が使われ、カーテンは琥珀色で雲立涌と菊の文様となっている。また、特筆すべき点は、油灯と電灯が併用されている点である。御料車として使われる時期には車両内の照明には電灯が用いられはじめていたため、この車両にも取付けられた。電灯のガラスカバーには菊花文と曲線による意匠が施されている。(写真5 ? 7)28