近代建築に使用されている油性塗料

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近代建築に使用されている油性塗料

近代建築に使用されている油性塗料について  51.はじめに建築物や構造物、鉄道車両や自動車等、私たちが目にする物のほとんどに使われている塗装には、保護、美観及び特別な機能がある。保護とは、塗装されることにより物の表面に保護膜を形作り周囲の環境から物を守り長持ちさせる機能である。美観とは、塗料が物に色、つや、滑らかさ、模様、立体感など仕上がり効果を与えることで物を美しく装う機能である。特別な機能とは、近年話題になっている殺菌効果であるとか、耐熱といったような、特殊な機能を言う。このような機能を持つ塗装であるが、文化財の修復の世界では、もちろん機能も問われるが、その真正性がより重要視される。「元の色はどのような色であったのか」、「顔料は何を使っていたのか」、「樹脂は何が使われているのか」、「溶剤は何だったのか」が問題になるのである。今回のテーマである、近代建築に使われた油性塗料については、日本でいつ最初に使われたのか諸説あるようではっきりしないが、少なくとも、江戸末期には使われ始めていた。明治期の建物には多用されるようになっており、西洋の建築様式とともに広まっていったのは間違いないところであろう。現在、重要文化財指定や登録有形文化財指定を受けている多くの建物に油性塗料が使われていた。それらの建物は修理の際、油性塗料を使用して塗装し直すことになるはずだが、残念なことに油性塗料を使用して修理される建物は数少なくなっている。その大きな理由はふたつあり、ひとつ目は施工時の塗装の記録がきちんと残っていない建物が多いこと、ふたつ目は現在日本国内では油性塗料を供給している塗料メーカーが存在しないからである。そのような現状で、文化財修理をどのようにしているのか、あるいはどのようにしていけばよいのかということに今回の研究会では焦点を当てた。2.油性塗料についてそれでは、ここで油性塗料について簡単に記述しておく。前述のように、日本でいつから油性塗料が使われ始めたのかはっきりせず、長崎の唐人屋敷に使用されていたとも言われているが、安政5年(1858)の日米修好通商条約の締結後、横浜をはじめ長崎、神戸等に建設された外国人宅に使用されていた。明治維新以降、日本各地に近代化の波が押し寄せることになるが、それに呼応して油性塗料も大量に使い始められる。そのなかでも多くは洋風建築として建てられた建築物に使用された。油性塗料が日本に導入された当時は、塗装工事は中国から来た職人が多くを担っていたが、そのうちに居留地内等で次々建設された洋風家屋の塗装工事に学んだ日本人の職人が増えて、国内各地での需要に応えるようになった。特に明治初期に各地に建設された官営工場等にも盛んに使われていた。その後、鉄道の発展とともに、駅舎や鉄橋等に使われるようになり、油性塗料の伝搬に大きな役割を果たしている。このようにして使われ始めた油性塗料は、当然それに伴って塗料の販売も行われていたはずで、横浜等が開港して近代建築に使用されている油性塗料について中山 俊介東京文化財研究所 保存修復科学センター近代文化遺産研究室 室長