近代建築に使用されている油性塗料

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近代建築に使用されている油性塗料

62レイン酸の酸基がグリセリンと反応して、別のトリグリセリドと結合することもある。その結果、半乾性油が乾性油に似た特性を持つようになることもある(図6)。赤外分光法(IR)による油性塗料とアルキド樹脂塗料の同定赤外分光法での重合体の識別は、難しいことではない。それぞれの重合体は独自のスペクトルを持つため、それによって判別が可能となる。それゆえに、対象となる塗料の種類がアルキドなのか、エポキシなのか、あるいはポリウレタンなのか、といったようなことが判るのである。しかし塗料の同定は、実際のところ、少々複雑となる。塗装材料の成分には重合体だけではなく、顔料、フィラー(体質顔料など)やその他様々な成分が含まれている。そして、それらの多くが赤外線照射に応答する。そのため、新しく表面に施された塗装からでさえも、教科書的な重合体のスペクトルとは異なるものが得られる。さらに不都合なことに、このような微量成分の吸収帯がしばしば強く現れることがある。また、古い塗膜の調査では、劣化による生成物がもたらす新たな吸収帯がみられる。したがって、赤外分光法での塗料の同定には、十分な経験が必要であるし、すべての謎が明らかになるとは限らないのである。ここでは、油性塗料とアルキド樹脂塗料の解釈に焦点をあて、それら以外の塗料については触れないでおくとする。乾性油とアルキド樹脂はグリセリンのエステルである。したがって、まずエステルのシグナルを見つけなければならない。エステルの主要な吸収帯は、1730cm-1で現れる炭素-酸素の二重結合の伸縮振動である。しかし、さらに炭素-酸素の単結合の伸縮振動を表すシグナルが必要となる。通常、これは1100cm-1と1300cm-1の間にみられる。トリグリセリドを調べてみると、普通、強度の異なる3つのシグナルをこの領域内(1250cm-1、1150cm-1、1110cm-1)にみることができる。乾性油及び油性塗料のスペクトルでは、1150cm-1でのシグナルが最も強く示される。1250cm-1でのシグナルは、ショルダーとして現れることが多い。1110cm-1でのシグナルは、最初のシグナルの強度の半分ということもある(図7)。アルキド樹脂のスペクトルでは、1250cm-1でのシグナルが強く、1150cm-1でのシグナルは、弱いが不明確という訳ではない。1110cm-1のシグナルは非常に強く、多くの場合、1050cm-1においても強いシグナルが出現する(図8)。文献には、脂肪族エステルのC-O振動が1150cm-1に、芳香族エステルの振動が1250cm-1にみられるとある。したがって、アルキド樹脂のスペクトルにおける1250cm-1での強いシグナルは、フタル酸エステルに由来すると言えるのである。炭素-炭素結合の伸縮振動(2920cm-1と2850cm-1)と変角振動(1450cm-1と1375cm-1)は、3400cm-1でのO-H振動と同様に、単に有機物質の存在を示すのみのため、解釈上それほど重要ではない。多くの場合、エステル吸収帯のすぐ右側に広い吸収領域がみられる。これは分子内の炭素二重結合とC-O-C変角振動の吸収領域である。そのゆえに、この領域では、脂肪酸の未反応二重結合と酸化架橋により結合された脂肪酸鎖をみることができる。ほとんどの場合、1650cm-1の付近に吸収があるとエステル吸収帯(1730cm-1)の強度は減少する。興味深いものに、1320cm-1でみられるシグナルがある。これは、分子中に第二アルコールがあることを示すものである。古い塗装膜にの