近代建築に使用されている油性塗料

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近代建築に使用されている油性塗料

50はじめに19世紀末までの塗装材料の製造には、天然資源のみを使用していた。シェラック、サンダラック、ベンゾイン(安息香)やロジン(松脂)といった樹脂をアルコールに溶解した揮発性ラッカー、植物油を原料とするワニス、琥珀やコーパルなどの硬質樹脂があった。さらに丙へい種しゅ ─ 第3種 ─ の塗裝材料には蝋(ワックス)があり、蜜蝋、カルナバ蝋やピューニク蝋などがバインダー(結合剤)として使用されていた。これらは、熱を加えた溶融状態の液体や溶液として塗布されていた。しかし、本稿では蝋についての詳細や、カゼイン、卵黄、澱粉や植物性ゴムのなどの水性バインダーについては触れないでおくとする。近代塗装技術の起源は、1882年にジョン・シルバー(John Silver)が、ニトロセルロースの溶剤として酢酸アミルを用いたことにある。これによって生成された樹脂は、金属製品の保護塗膜として使用された。1901年、ワトソン・スミス(Watson Smith)は「グリプタル」樹脂と呼んだフタル酸とグリセリンから成る合成樹脂を生成したが、1927年まではそれほど使用されることはなかった。1907年、レオ・ベークランド(Leo Baekeland)は、フェノールとホルムアルデヒドから生成した合成樹脂を紹介し、後にその揮発性ワニスである合成樹脂は、カート・アルバート(Kurt Albert)がフェノール類にロジンと熱を加えて生成した樹脂に取って代わられた。1927年、ロイ・H.・キーンリ(Roy H. Kienle)はグリプタル樹脂に脂肪酸を加えて改質し、それをアルキド ─ アルコールalcoholと酸acid から取って ─ と名付けた。今日、塗料製造では、様々な異なる種類の樹脂が利用されている。原則的に、縮合重合反応を用いて生成する樹脂であるアクリル、ポリウレタン、エポキシ、ポリアミド、ポリエステルなどの重合体は、どれでも塗料製造に使用可能となる。基本用語ラッカー(アルコールなどの溶剤に溶解された樹脂)の塗膜は、溶剤(溶媒)の揮発、つまり物理的な乾燥もしくは硬化により形成される。一方、ワニス(主に乾性油)は、化学反応によって硬化する。通常、ワニスの塗膜は乾性油の重合によって形成される。いわゆるエナメル塗料も架橋結合(クロスリンク)によって硬化する。樹脂のみで塗膜が形成されることもあるが、その場合、往々にしてその膜は硬くもろいものとなる。このような樹脂を金属面に塗布する際には、軟化させるためにエレミなどの軟性樹脂を加える。それに対して、乾性油のみから形成される塗膜は、どちらかというと軟らかく劣化しやすいものとなる。それゆえ、より耐久性のある厚い膜にするために樹脂を加えるのである。琥珀、コーパルやロジンが乾性油に加えられるのはこのためである。油と樹脂との間でいくつかの反応が起こることもあるが、概して油が網目構造を形成し、樹脂がその隙間を埋める塗装技術の歴史(開発、原料、性質、反応、及び油性塗料とアルキド樹脂塗料の同定)フォルカ・キースリングドイツ技術博物館 修復部門責任者