近代建築に使用されている油性塗料

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近代建築に使用されている油性塗料

38工にあたり、工費は11,000円余りであった。当時の仕様書から、「ペンキ三度塗」という記述があり、大変丁寧な仕様であったことがうかがえ、またその材料についても、「白ペンキ」、「石黄」、「群青」などの顔料、「荏じん水すい」(荏油)、「絵之具」も購入していることがわかっている。資料上はペンキの使用が確認されているが、現存する建物についても分析は未調査であるため、今後、調査研究への取り組みが期待される。文化財建造物は、現存している特性上、物から得られる知見というものがある。前回修理時に未調査の事項も、改めて調査することも可能である。今後も東京文化財研究所や修理に携わる技術者とも連携しながら、取り組んで行きたいと考えている。3. 近年の文化財建造物保存修理における油性塗料の使用実態次に、近年の文化財建造物の保存修理における油性塗料の使用実態について報告する。東京都の旧岩崎家住宅洋館(写真14)は、平成20(2008)年度に塗装修理を実施した。塗装はクリーム色であるが、この色のペンキの入手が困難であったため、白色の油性調合ペイントを入手し、合成樹脂調合ペイントにより調色を行った。同じ時期に保存修理を実施した兵庫県の旧ハッサム住宅では、濃緑色の調色がすでにできない状況にあったため、やむなく合成樹脂調合ペイントを使用した(写真15)。ここ数年の間に、これまで入手できていた油性塗料が入手困難に陥り、同素材、同仕様で修理するという文化財建造物の修理のあり方をあてはめることが困難になってきている状況である。これまで、木造の文化財建造物における油性塗料の実態についてお話したが、文化財には橋梁など鋼鉄製のものもあり、当初期には油性塗料の使用が想定される。福岡県と佐賀県にまたがる旧筑後川橋梁は、昭和10年(1935)に建設された。平成22(2010)年度に保存修理を実施し、その際の調査で塗膜の分析を行った(写真16)。橋については、定期的な塗り替えが実施され、その際、丁寧にケレンされると、ほとんどの場合、以前の塗膜が失われてしまう可能性が高い。旧筑後川橋梁については、塗膜の断層写真やケレン中の調査により、わずかだが緑色の塗膜層が確認された。この緑色の塗膜層の下には、さらに鉛丹色の2層の塗膜層が確認されている。これより、当初の塗装が、2回塗の場合は上塗が鉛丹色、3回塗の場合は緑色の可能性があるというところまで調査ができた。当時の仕様書から、ズボイドという亜鉛化鉛粉錆止塗料を使用したことがわかり、これは当時のベンガラ塗料に比べ高価な塗料であったが、性能の良さや維持管理の面を考慮し採用されたと考えられている。今後、塗膜の成分分析などを実施することで、さらなる知見が得られるかもしれない。実施の仕様については、定期的なメンテナンスが容易でないことも考慮し、現代の塗料(フッ素樹脂ペイント)が採用された。4.おわりに以上、文化財の修復事例からの油性塗料の使用実績等の概要について報告した。文化財建造物の保存修理は、同素材、同仕様で行うことを旨としている。ところが、近年、入手が困難な資材が出てきつつあるのも事実であり、とりわけ、近代以降の文化財建造物においては、そのスピードが速い。文化財建造物は、北は北海道から南は九州、沖縄まで津々浦々存在し、文化財が置かれている環境も、冬季は雪に閉ざされる寒冷の地から、海の間近で