近代建築に使用されている油性塗料

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近代建築に使用されている油性塗料

281.はじめに私は文化財建造物の修理に携わっているため、「文化財の修復事例からの油性塗料の使用実績等の概要」として、近年の修復事例の紹介とともに、現在直面している課題について報告したい。我が国には、法隆寺や平等院をはじめとする寺社建築がたくさん所在する。また、姫路城などの城郭、あるいは兵庫県の箱木家住宅のような民家など、建設後、幾度もの適切な修理を経て、現在にその魅力を伝え続ける文化財建造物がたくさんある。これら明治以前に建築された建物においても、木材を保護し、また美装するために彩色塗装を行っている。その主たる塗装材料は、漆や膠を原料にしたものであり、油性の塗料としては植物性の油を中心とした桐油塗やチャン塗が用いられてきた。埼玉県の歓かん喜ぎ 院いん聖しょう天てん堂どうは、様々な技法を凝らした彩色が施された建物である(写真1)。文化財建造物は、寺社仏閣だけでなく、近代以降の洋風建築や土木構造物など多岐にわたり、近年これらの建造物についても指定を進め、保護の措置を図っているところである。これら近代以降の指定は、棟数では重要文化財建造物全体の15%ほどを占めており、今後もさらにその割合が増えていくことが予想される。これらの文化財建造物の保存修理を行う場合は、同素材、同仕様で行われることを原則として取り組んでいる。そのために、保存修理を担う方々の技術や技能の保護、さらには資材の安定的な確保のための取り組みも欠かせない。文化庁では、文化財の保存に欠くことのできない伝統的な技術や技能で保存すべきものを選定し、その保持者や保存団体を認定する選定保存技術制度を設けている。建造物に関わる技術としては、団体が9つ、個人が15名、認定されている(表1)。また、塗装については、「建造物装飾」や「建造物彩色」の技術が選定されている。このほか、資材に関する取り組みとしては、現在は植物性材料について「ふるさと文化財の森システム推進事業」を実施しており、文化財建造物の修理に必要な資材のモデル供給林となりうる「ふるさと文化財の森」の設定を行うとともに、資材採取の研修事業や普及啓発支援、管理業務支援を実施している。ふるさと文化財の森は、現在までに38箇所が設定されている(図1)。塗装に関する資材としては、漆が挙げられる(表2)。漆については、国内生産が減少している状況だが、かつて漆は地域に根ざした資材であり、近年その再生への取り組みが各地で起こると共に、文化財建造物の保存修理に協力したいとのことで申請があがっている。また、地域同志のネットワーク化が図られているところもあり、国内産漆の利用の確保や質のさらなる向上などの課題について、今後取り組んでいきたい資材である。2. 明治初期の文化財建造物における油性塗料の使用事例近代の幕開けとともに、わが国にも洋風建築が建てられた。現存する建物は、当時の技術や材料など多くの知見をもたらしてくれる。保存文化財の修復事例からの油性塗料の使用実績等の概要小沼 景子文化庁文化財部参事官(建造物担当)修理指導部門