近代建築に使用されている油性塗料

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近代建築に使用されている油性塗料

博物館明治村の建物群の修復に使用した油性塗料に関して─展示建造物にみる塗装復原の現状と課題─  15昨年(平成23年(2011))、東京文化財研究所より博物館明治村の展示建造物に塗布された油性調合塗料を調査したいという依頼を受け、移築及び保存修理工事において使用した塗料について整理する機会を得た。明治村は、移築された重要文化財建造物および登録文化財建造物を修理する立場であると同時に所有者かつ管理者でもあることから、施工後の劣化状況を観察し、その後の保存修理工事に反映できる環境にある。今回は、過去の保存修理工事で使用した油性調合塗料の種類と既に国内生産が終了した問題、また維持・保全の過程で生じた課題について紹介したい。まずは博物館明治村の展示建造物の概略について述べておきたい。博物館明治村は、昭和40年(1965)に開村した総面積約100万m2の大規模な野外博物館である(写真1)。初代館長であった建築家谷口吉郎先生が、昭和15年(1940)に鹿鳴館(明治16年(1883)創建)が取り壊されたことを惜しみ、後に名古屋鉄道社長となる旧第四高等学校の同級生、土川元もと夫お 氏に博物館の夢を語ったことに端を発して、戦後の高度成長によって取り壊される歴史的建築物を保存するために創設された。展示建造物は、すべて消失の危機に瀕して移築された建造物である。明治村といっても展示建造物の創建年代は様々で、明治初期から大正、昭和初期にまで至る。近代に建てられた一連の歴史的建造物を、当時の雰囲気を伝える展示とともに公開している。現在の展示建造物の棟数は、移築建造物66棟、うち重要文化財10棟、登録有形文化財53棟、県指定文化財3棟、この他の工作物は8棟に上る1)。庁舎建築、通信施設、教育施設、医療施設、教会、商業建築、住宅、監獄、工場、移民住宅といった建築物に加えて、灯台、橋梁といった土木遺産など、多様な建築種別を保存している。現在、保存修理工事に際しては、建物の特徴や歴史的価値を担保した修理方法と仕様を検討している。塗装工事についても同様に、既存塗膜の調査と材料の選択、施工方法の検討を行う。材料の選択では、文化財指定の種類、塗布する場所の状況、工期、維持管理を考慮しており、例えば、登録文化財の灯台や橋梁のような工作物については、維持管理の側面からフッ素樹脂塗料を用いることもある。木の素地をあらわす部分には、防腐防虫効果を期待して柿渋を塗布することや、著しく乾燥した木部の割れや雨水のはね返りによる汚損防止のため、荏えの油あぶらを塗布することもある。明治村の展示建造物において油性調合塗料が施されてきた主な部分は、国指定文化財の外壁や柱、手摺、建具周り等の木部である。ここで博物館明治村の建物群の修復に使用した油性塗料に関して─展示建造物にみる塗装復原の現状と課題─柳澤 宏江博物館明治村 建築担当写真1 明治村全景